グランドセイコーに対抗した、第二精工舎(亀戸)が誇るセイコー腕時計の王様
注:当記事はキングセイコーファーストの紹介がメインですが、「亀戸と諏訪」の話につい熱が入ってしまいましたので、読みたくない方は目次から直接レビューへどうぞ笑。
亀戸(キングセイコー)と諏訪(グランドセイコー)
キングセイコーファーストというモデルを語る上で、避けては通れないのが、「亀戸」と「諏訪」のお話。
かつて、ブランド名は「SEIKO」で統一されていたものの、設計・製造部門が完全に2つに分かれていた時代がありました。
極々簡単に言うと、
亀戸=第二精工舎(キングセイコー)
諏訪=諏訪精工舎(グランドセイコー)
というのが地名と会社、そしてKS、GSの関係性です。
これだけ覚えておけばまあ十分なんですが、セイコーファンならその歴史も知っておきたいですよね(?)ということで、この後簡単に紹介します(ややこしい話なので間違っていたらごめんなさい)。
ちなみに………
上の写真のように、一定の年代のセイコーのヴィンテージ時計には亀戸、諏訪それぞれのマークが入っています。
勘の良い方は、「あれっ…」と思ったかもしれませんが、グランドセイコーに亀戸マーク、キングセイコーに諏訪マークが付いています。
実は、
亀戸=キングセイコー
諏訪=グランドセイコー
というのは初めだけで、後に亀戸でも諏訪でも、キングセイコー、グランドセイコー両方を製造するようになります。
その辺りの話はまた今度させていただくとして、今回はキングセイコーが誕生するまでをお話したいと思います(紛らわしくて本当にすいません笑)。
亀戸と諏訪の歴史
【1892年】
服部金太郎が服部時計店を興し、自社で時計を生産する工場(精工舎)をつくる。
「精工舎」は最初から会社名だったのではなく、初めは単なる工場の部門名でした。まずはクロック(掛け時計や置き時計)の生産を開始、その後、ウォッチ(懐中時計や腕時計)製造部門ができました。
【1937年】
ウォッチ製造部門が分離され、「第二精工舎」という社名で法人化。
この第二精工舎の本拠地が亀戸であったため、亀戸=第二精工舎とされています。
【1943年】
1941年の太平洋戦争が勃発以後、第二精工舎は空襲に備えて工場を疎開させていく。
この時、諏訪に疎開させた工場が諏訪精工舎の前身となる第二精工舎諏訪工場でした。
【1943年〜1948年】
服部時計店の元従業員が諏訪で営んでいた時計販売・修理業に、服部時計店と第二精工舎が出資してできた大和工業という会社が、第二精工舎諏訪工場と協力し、腕時計の部品製造や組み立てを行う。
こうして、諏訪への疎開中に、開発から製造までの一貫した製造体制が確立されました。
東京に比べ空襲の被害が少なかったと思われる諏訪は、大和工業の協力もあり、戦後早い段階から生産体制を整えることができました。
東京は空襲等で壊滅的な状態であり、第二精工舎の復旧が遅れる中、諏訪がセイコーにおける主要な生産拠点になっていたと思われます。
【1949年】
終戦後、東京は壊滅的な状態だったが、諏訪工場以外の疎開工場が再び亀戸に集約され、第二精工舎もようやく本格的な時計生産を再開。
一方、第二精工舎諏訪工場はそのまま諏訪に残り、大和工業との協力関係を維持しながら生産を続けました。
【1959年】
大和工業は、第二精工舎から諏訪工場を譲渡され、社名を大和工業から諏訪精工舎へ変更。
これが、諏訪=諏訪精工舎となります。
キングセイコー誕生
……とまあ、ここまで亀戸、諏訪の歴史を長々と書いてきましたが、実際の腕時計生産はどうなっていたのか、具体的に見ていきます(もう歴史の授業はウンザリ、って方は飛ばしてください笑)。
亀戸が拠点の第二精工舎は、服部時計店の子会社ではあったものの、腕時計製造部門としては、セイコーグループ内では本丸扱い。
一方の諏訪精工舎は、そもそもの前身が第二精工舎や服部時計店が出資してできた、大和工業という、第二精工舎諏訪工場(太平洋戦争による疎開工場)の協力会社。
本来の序列なら、第二精工舎>諏訪精工舎だったと思われます。
ですが、先述したとおり、戦時中、戦後復興期のセイコーにおける腕時計製造の中心は、第二精工舎諏訪工場と大和工業のタッグが担っていました。
その流れが引き続き、戦後復興後(1950年〜1960年)のセイコーにおける腕時計製造の中心もまた、諏訪の製品たちでした。
スーパー・マーベル・スポーツマン・ライナー・クラウン・ロードマーベル・クラウンスペシャル…そしてあのグランドセイコーファーストと、主力を担う名機ばかり。
こうした背景があったからなのか、そうでないのか、亀戸の第二精工舎も負けじと、ユニーク・ローレル・チャンピオン・クロノス・ゴールドフェザー・クロノススペシャル…そしてグランドセイコーに対抗すべく打ち出されたキングセイコーファーストと、各年代、各価格帯でライバル機を発表していきました。
同じグループ内での開発競争という、あまり例を見ないこの歴史は、ヴィンテージ時計ファンの心を掴んで離しません。
私はGSもKSもどちらも大好き(コレクション唯一のグランドセイコーがこちら)ですが、このキングセイコーファーストの、強大なライバルを倒すべく送り込まれた最終兵器感がたまらなく好きなんですよね(同じような方、絶対いますよね?笑)。
キングセイコーファーストの種類について
まず、キングセイコーファーストと一口に言っても、「前期型と後期型」、「14KGF(14金張り)とステンレス」、そして「SD文字盤とAD文字盤」という、主に3つの違いの要素があります。
【前期型と後期型】
→前期型はRef.J14102E。後期型はRef.15034KS。
主な違いは、ケース径、ラグ、インデックス、秒針でしょうか。
ケース径は、前期型がやや小さく35mm。後期型は36mm。
ラグは、前期型の方が細くシンプルな形状。後期型は太くなり、特に付け根がガッシリ、全体のエッジも立って斜めの切り返しが入る。
インデックスは、前期型の方が太く、中心に彫りがある。後期型はやや細くなり、彫りも無くなった。
秒針は、前期型がとても細く、後期型は通常の細さ。
【14KGF(14金張り)とステンレス】
→これは最もわかりやすく、ケースが金張りかそうでないか、という違い。
【SD文字盤とAD文字盤】
→SD文字盤(Special Dial)は、インデックスに18金無垢(もしくは14金無垢)を使用した文字盤。
AD文字盤(Applique Dial)は、インデックスにSGP硬質金メッキを使用した文字盤。
私の愛機はというと、「後期型のステンレスモデルで、AD文字盤」となります。
自分としては、まずステンレスモデルの汎用性に惹かれていて、また力強いラグの形状が好みだったこともあり、後期型のステンレスモデルを選択。
できればSD文字盤が欲しかったですが、後期型のSD文字盤は玉数が少なく、全体的な状態の良さの方にこだわってAD文字盤を選んだという形です。
スペック&レビュー
ようやくここで、愛機のスペック紹介。
セイコー キングセイコーファースト(KING SEIKO 1st)
型式:Ref.15034KS
製造年月:1963年5月
ムーブメント:手巻き、25石、18000回転/時(5振動)
文字盤:シルバー
ケース素材:ステンレス
ケースサイズ:縦43mm/ 横36mm(リューズ除く)/厚み10mm
ラグ幅:18mm
防水:非防水
ベルト:Accurate Form(アキュレイトフォルム)姫路黒桟革 型押し(ブラック)
尾錠:キングセイコーファースト純正品
ぱっと見の印象は、「シンプルイズベスト」と言わんばかりの洗練されたデザイン。
その中でも主張してくるのが、大きく厚みのあるインデックスと、エッジの立った力強いラグ。
ラグの斜めになった切り返し部分が、光の反射を変え、ケースに立体感を上乗せしています。
それまでボンベダイアル(ドーム状に中央が膨らんだ文字盤)を採用していたセイコーが、フラットダイアルを初めて採用したのもこのモデル。
オーソドックスなドルフィン針が良く映えます。
横から見た佇まいも大好きなポイント。
グランドセイコーファーストに比べ、厚みを抑えたケースはどこか亀戸の意地、こだわりを感じさせます。
今では珍しいボックス型の風防も、フラットな文字盤を最大限に活かす工夫でしょうか。ヴィンテージ感も醸し出して良い味わいです。
リューズには大きめのカットがしっかりと入っていて、操作性も良く良質です。Sマークも良いアクセントになっています。
裏蓋のメダリオンついては、金張りモデルはしっかりとしたメダルなのに対し、ステンレスモデルはレーザー刻印のよう。
この点はどうしても金張りモデルに一歩譲らざるを得ない感じがします。
愛機の裏蓋の刻印も消えかかっております…涙。
ベルトには、Accurate Form(アキュレイトフォルム)さんの、姫路黒桟革 型押し(ブラック)を選択。
姫路黒桟革とは、国産黒毛和牛を使用し、日本古来の伝統技法である「なめしの技術」と「漆塗りの技術」を融合させた革。『革の黒ダイヤ』とも呼ばれるそうです。
また、摩擦に強く現在では剣道の胴胸などの武道具に使われ、戦国時代には、 大将クラスの甲冑に使われていたそうです。
国産時計には国産革ベルトを、とこだわってみました。実際、耐久性も高く非常におすすめできます。
尾錠も純正品なのが嬉しいポイント。珍しい筆記体ロゴの「SEIKO」。
この尾錠だけでも、フリマサイト・オークション等では一万数千円で取引されているようです。
着用シーンはビジネスが主体かと思いますが、文字盤は控えめながら華やかで、ドレスも全く問題無さそうです。
グランドセイコーファーストがヴィンテージ国産時計の最高峰として良く名前を挙げられますが、このキングセイコーファーストもまた、歴史的なバックボーンも相まって非常に魅力的な一本です。
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