歴史もデザインも魅力に満ち溢れた「世界初の腕時計」。
世界初の腕時計
「世界初の腕時計」、何ともまあ、時計好きにとっては所有欲を掻き立てられる響きです。
実は、今回紹介するカルティエのサントス以外にも、世界初の腕時計と呼ばれるものがあります。
まず、どうやら最も古そうなのがブレゲ。
何と1810年に、ナポレオンの妹でもある、ナポリ王妃カロリーヌ・ミュラに対し腕時計を捧げたという記録があります。
また1880年には、ジラールペルゴが、ドイツ皇帝ウィルヘルム1世の注文により、ドイツ海軍将校のための腕時計を2000本製造したという記録もあります。
では何故サントスが「世界初の腕時計」として多く名前を挙げられるのか。
1800年代の腕時計は、懐中時計のケースにベルトを通す金具を付けただけ、つまり時計としてはほぼ懐中時計でした。
そしてジラール・ペルゴのものも、丸型ケースにベルトを通す金具を付けた、言わば「懐中時計を腕に巻きつけた」状態のものでした。
これに対しサントスの特徴は、時計のケースを正方形とし、その四隅から繋がるような突起=ラグを作ったうえで、そこにベルトを装着するというデザイン。
そのデザインが革新的であり、現代の腕時計の基本形ともなったことから、「世界初の腕時計」の称号を得ているのだと思われます。
また、サントスは「世界初の男性用腕時計」とも言われます。
それまでの腕時計は基本的に女性用。先に挙げたナポリ王妃の例のように、貴婦人が懐中時計を腕に巻く、言わばブレスレットの一部に時計を取り入れるという形でした。
ジラールペルゴがドイツ海軍に納品した時計も男性用ではありますが、やはり懐中時計のケースにベルトを通す金具を付けただけのもの。実用的ですがデザイン性は二の次でした。
そんな中サントスは、貴婦人のブレスレットのような優美なデザインを持ちながら、懐中時計と同じ高い実用性を兼ね備える、「世界初の男性用腕時計」としてデビューして以後、多くの人を惹きつけて止みません。
サントスの誕生
カルティエの3代目、ルイ・カルティエと、ブラジルのコーヒー王アンリクの息子で、飛行冒険家のアルベルト・サントス・デュモン。パリが最も華やかであった20世紀初頭の社交界で、二人の人気者が出逢いました。
ある日のこと、サントスはカルティエに、「飛行機の操縦中に、懐中時計で時間を確認するのは難しい。」と不満を漏らすと、それを聞いたカルティエは、さっそく彼のために「腕時計」のデザインに着手。
サントスは当時ファッションリーダーとしても名を馳せており、パリの人々は彼のファッションをこぞって真似するなどしていました。
そんなおしゃれなサントスを満足させるため、カルティエは機能的かつエレガントな腕時計をデザインし、1904年にサントスに贈りました。これが「サントス」というモデルの誕生秘話です(一般販売は1911年から)。
サントスの歴代モデル
1904年
サントス(オリジナル)誕生。
1911年
サントス・デュモンの一般販売が開始。
イエローゴールドまたはプラチナといった貴金属ケースに革ベルト、そしてバックルにはカルティエの発明と言われるDバックルを装備。
しかし、第二次世界大戦から1950年代にかけ、時計界の流れは軍用時計に傾き、その要件の一つである「ラウンドケースの時計」でなかったサントス・デュモンは徐々に人気を失っていきました。
1970年代
腕時計界にオーデマピゲのロイヤルオークや、パテックフィリップのノーチラスといった、「ラグジュアリースポーツウォッチ」が登場。
高級時計=ゴールドケースというそれまでの常識を覆し、ステンレス製ケースを用いたラグジュアリーな時計がトレンドとなっていきました。
その流れに乗ってカルティエが目をつけたのが、一時人気が下火になっていたサントスシリーズの刷新でした。
1978年
私のコレクションでもある、新生サントスが誕生。
新生サントスには、リューズガードが追加され、7角形に整えられたリューズ、従来より大きく象徴的なビス留めデザイン、そしてステンレス製のケース・ブレスレットを備えるなど、それまでのクラシカルな印象にスポーツ感がプラスされ、「ラグスポ」モデルとして生まれ変わりました。
また、新生サントスは当時としては画期的な、ステンレスとゴールドのコンビネーションを採用し、より一歩ラグジュアリーなスポーツウォッチを実現。
このステンレス×ゴールドのコンビは1980年代にかけて非常に人気を博しました。
1987年
若干の変更を加え、モデル名を「サントスガルベ」にチェンジ。
ガルベとはフランス語で「曲線」を意味し、それまで直線的な箱型だったケースを湾曲させ、腕乗り感を改善しました。
サントスガルベはオールステンレスまたはコンビモデルの展開で、時代の影響もあり、自動巻きムーブメント搭載モデルは少なく、ほとんどがクォーツムーブメントでした。
2004年
サントス生誕100周年を記念してサントス100が発売。
当時のデカ厚ブームに乗じ、厚みを増したほか、ベゼルやビスも大きく骨太な印象となりました。
防水性も、それまでの30m防水から100m防水へと大幅にアップ。サントス100の通常モデルは「ステンレスケース×レザーストラップ」でしたが、後に、ブラックのカーボンコーティングを施したステンレスケースや、チタンベゼル、ラバーストラップ、クロノグラフといった、様々なバリエーションの革新的モデルを2017年にかけて発表していきました。
2018年
ここで大幅にリニューアルされたサントス ドゥ カルティエ。それまでのETAムーブメントから、自社製ムーブメントへと変更。
サントス100からの大きな変更点は、まずベゼルの形状。ブレスレットに向かってつながるようなデザインに変更されました。
そしてケースの厚み。厚さ9.08mmと薄型で、デカ厚から一転、スタイリッシュな印象となりました。
デザインの変更だけでなく、工具なしで簡単にベルト交換が可能な「クイックスイッチ」機構や、コマの調整を可能にした「スマートリンク」機構といったアップデートもなされています。
2019年
初代サントスであるサントスデュモンの新作が登場。
デザインはオリジナルを踏襲し、リューズガードはなし、リューズも装飾されたカボションに戻り、クラシカルかつドレッシーなモデルとなりました。
ケースの厚さも僅か7.3mmで、スマートなドレスウォッチ感があります。
スペック&レビュー
ということで、私のサントスをレビューしていきます。
カルティエ サントス(Santos de cartier)
製造年代:1980年代
ムーブメント:Cal.2671(自動巻き、25石、パワーリザーブ38時間、28800回転/時(8振動))
文字盤:ホワイトローマン
ケース素材:イエローゴールド、ステンレス
ケースサイズ:縦41mm/ 横29mm(リューズ除く)/厚み9mm
ラグ幅:18mm
風防:サファイアクリスタル
防水:非防水
ベルト:カルティエ純正コンビブレス
まず時計は時計なんですが、強いアクセサリー感、ブレスレット感を感じます。
一目見て、「ああ、これは高級なものだな」と感じさせてくるので、所有欲を大いに満たしてくれます。
やはり特徴はそのデザイン。ベゼルとブレスレットのビスモチーフには、唯一無二のお洒落感があります。
ゴールドとステンレスのバランスが非常に良く、ラグジュアリーとスポーツを両立させていますが、全体的なデザインも相まってか、ややラグジュアリー感、ドレス感が強めかなという印象です。
文字盤はツヤ感のある上品なホワイト。経年変化で割れがある個体も多い中、これは綺麗な個体です。
針も特徴的な青焼き針。光の加減で青さが変化し、深みのあるブルーが非常に綺麗です。
ローマンインデックスも、「この時計にはこれしかない」、というほどマッチしており、7時位置に「CARTIER」と隠し文字がされているのも芸が細かくグッとくるポイントです(すごく細かいですが、上の写真で見えますか?笑)。
ブレスレットはコマが細かくしなやかで、バックルに向けて細くテーパードしていくため、野暮ったさが全くなく、スタイリッシュでスマートな印象。
バックル部も手抜きのない高級感のある造りで、どこから眺めても美しい仕上がりです。
リューズ周りはスポーティな仕上がりに。シンプルなリューズガードと、7角形に成形されたリューズに美を感じます。
ブルーのカボションも見る度魅了されます。
厚みも9mmと抑えられており、程良くヴィンテージ感があるため、現行品では味わえない渋みがあります。
実はこの時計、サイズ展開がありまして、妻とペアウォッチで購入しました(お財布は相当に痛みましたが…笑)。
ヴィンテージのペアウォッチは個人的にとてもおすすめです(別記事、ヴィンテージペアウォッチのススメも読んで頂けたら嬉しいです)。
やはりトップジュエラーであるカルティエ、女性の心にも刺さるデザインはお手の物といった感じです。
29mmとケース幅は小さいですが、スクエアケースであることから、そこまで小ささは感じずに、太腕の私でも十分馴染みます。
コンビモデルなので、ビジネス用途には少し派手とも思われますが、サイズが現行品よりも小さく、主張が強すぎないので十分許容範囲だと思います。
ラグスポモデルの宿命で、あまりにカジュアルな服装には合わないかもしれませんが、程良いスポーツ感があり、幅広い場面・服装に合わせることができる1本です。
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