みなさんは、「タイムグラファー」という機械を知っていますか?
今回は、機械式時計好きなら、タイムグラファーを持っておくと時計ライフが更に一段階面白くなるよ、というお話。
機械式時計の精度
機械式時計の精度は、1日あたり遅れ10秒〜進み20秒くらいまでは許容範囲とされているそうです。
この1日あたりの進み・遅れの度合いを「日差」と呼び、進みを「+」、遅れを「−」で表します。
(例)
日差+20秒 = 1日あたり20秒進む
日差−10秒 = 1日あたり10秒遅れる
時計は時間を測り、時刻を伝えるもの。「遅れるよりは、進んでいた方がマシだよね。」ということから、進みを若干多く許容します。
上記の数字は現行品のもので、ヴィンテージ・アンティーク時計では−30秒〜+60秒くらいでも許容されるかなと思います。
「……え、俺のG-SHOCKは1秒もズレないけど?」という声も聞こえてきそうですが、違うんです。G-SHOCKと機械式時計では、根本的に時計の構造が違います。
G-SHOCKをはじめとしたクォーツ時計は、
水晶振動子が電池のエネルギーで数万から数百万回振動
→電子回路によって1秒ごとの電気信号に変換
→電気信号がステップモーターに送られ歯車が回り針が動く
という仕組みです。
これに対し機械式時計は、巻かれたゼンマイが解ける力を利用して針を動かす時計。
リューズによって巻き上げられたゼンマイが元に戻ろうとする
→脱進機と調速機で戻る力を調整
→調整した力が歯車の回転につながり、正しい間隔で針が進む
という仕組みです。
電池などを使用せず、機械部品の物理的な力のみを使っているため、1秒間に針を進める回数(振動数)は多い時計でも10回程度。どう頑張っても1日に数秒の誤差が出てしまい、クロノメーター規格という非常に高水準な検査でも、日差−4秒〜+6秒という基準です。
「じゃあ何で機械式時計なんて使ってんの…?」って人も当然たくさんいる訳ですが、時計好きとしては、細かな部品の一つ一つが連動しあって、日に秒単位という精度で針を動かしているというところにロマンを感じるのです。
精度の測定方法
機械式時計を持っていると、その精度が非常に気になります(なりますよね?笑)。
1日着用してみて、何秒進んだか、遅れたかを確認してみた方も多いと思います。
機械式時計には姿勢差(時計の姿勢をさまざまな向きにした際に、地球の重力によって生じる精度の誤差。)があるので、実際に着用して日差を測定するのは、なかなか効果的な方法だと思います。
しかし、精度の測定に最低1日、場合によっては見るのを忘れたりして、何日もかかる……のは、少々手間ですよね。
そこで登場する便利な機械が、「タイムグラファー」なんです。
タイムグラファーとは
タイムグラファーとは、機械式時計のテンプの音をマイクで拾うことで、簡易的に日差(1日分の精度)等を計測できる計器です。
機械式時計はテンプの往復運動によって精度を出します。このテンプの状態を確認することで、ムーブメントの状態をある程度知ることが可能です。
具体的には、「歩度」「振り角」「片振り」「振動数」といったものを数値化して確認できます。
短時間で、時計の裏蓋を開けることもなく、精度をチェックできるため、非常に画期的な計器です。
測定できる数値1 歩度
「歩度」は時計の精度にあたります。
ほんの10秒足らずで日差を表示できるので非常に便利です。この「歩度」がまずは重要な数値で、一番に知りたいところです。
タイムグラファーがない場合、歩度については、時間をかければ目視である程度測定できますが、これから紹介する他の数値は基本的に測定できません。
測定できる数値2 振り角
「振り角」はテンプが左右に触れる際の角度のこと。
昔、振り角は大きい方が高精度だと言われていましたが、テンプの振り幅が大きいとそれだけ振り当たり(振り石と呼ばれるパーツがアンクルの反対側に当たり、その衝撃で時間の進みが加速してしまう現象)が発生しやすいという側面もあります。
そのため振り角は大きい方が良いとは一概には言えず、一般的に250度~320度程度が望ましいとされています。ロレックスなどは振り当たりを起こさないことを重要視しているせいか、250度前後の個体も珍しくないようです。
もっとも、基本的に数値が低いのは良くなく、油切れやゼンマイの巻き上げ不足などを示唆しています。
測定できる数値3 片振り
「片振り」はビートエラーとも呼ばれ、きちんと左右均等にテンプが回転しているかを示す数値です。
この数値が大きいと、テンプの中心が左右どちらかに偏り、片振りが大きくなっていることを示唆していて、0.0~0.3程度までが良好な数値とされているようです。ただヴィンテージやアンティーク時計の場合、0.5程度までは許容範囲ともされます。
測定できる数値4 振動数
最後に、「振動数」です。その名の通り、テンプが1秒間に何回振動するか、を指します。
通常、振動数が高いほど、時間の正確さは増すと言われています。
一般的な腕時計は毎秒8振動(毎時28,800振動)のものが多いです。
ヴィンテージ・アンティーク時計は毎秒5~6振動(毎時19,800振動~21,600振動)のものが多いです。
毎秒7振動(毎時25,200振動、オメガに多い)を含めた、5〜7振動のものを「ロービート」と呼んだりします。
毎秒10振動(毎時36,000振動)のものもあり、8〜10振動のものを、「ハイビート」と呼んだりします。
実際に使ってみて
私は大抵毎日違う時計を着用するのですが、家に帰ったら、まず時計を外して、タイムグラファーに乗せることが多いです。
そこで時計の健康診断をチェックし、もし各数値が「何かいつもと違うな…。」と感じたら、もう数日タイムグラファーに乗せてみるなどして、継続的に観察します。
結果的に、何も問題ないこともありますが、やはり何かおかしいなという場合は、修理に出す場合もあります(物によっては自分でいじってみることもあります)。
単なる時計の進み遅れだけでなく、さまざまな数値を確認できるので、時計の異常の早期発見につながりますし、何よりも、時計の状態を数値化して見れるのがとても興味深く面白いです。
お値段は数万円〜と決してお安くはありませんが、時計好きなら持っておいて損のないアイテムだと思います。
今度時間がある時に、コレクションの測定会なんかやってみたいなと考えています笑。
コメント